『登高』杜甫(日中バイリンガル吟唱 第54作)
七言律詩の最高傑作と讃えられてきた杜甫の晩年の孤独をよんだ悲中有壮の『登高』です。
律詩は平仄や押韻などで生じるリズムからも対の感覚が強くある上に、この詩は、8行詩の構成である首聯、頷聯、頸聯、尾聯の各2句ずつの4聯全てが対句である全対格の詩で、前半2聯が写景、後半2聯が抒情と、偶数やシンメトリーの感覚を大事にする中国人にはたまらないのでしょう。

別の投稿でも述べましたが、中国の吟誦を調べていく中で、吉川幸次郎と中国の吟誦家の華鍾彦・華鋒(非物質文化遺産吟誦継承者)親子について知ることとなりました。華鍾彦の著書中には、吉川幸次郎との応酬詩だけでなく、接待中の車中で互いに『登高』を杜甫の最高傑作と認めあった上で二人で合吟し、その際の吟詠の抑揚リズムが全く同じであったとの感動の言葉が並んでいました。そんなこともあり、『登高』の吟唱作品を作りたいと準備はしてきました。
華鋒の『吟詠学概論』には『登高』の吟誦譜面が父鍾彦のも含め2種類掲載されていました。また、文科省にあたる中国教育部の推薦図書である『我愛吟誦』高級編にも採り上げられ、付録のDVDには13人に及ぶ吟誦作品の録音・録画が採録されていました。ただ、どの作品も私自身の気に入る吟誦ではなく、なんとか選んだのが、今回の北京吟誦調で歌われた蘇立康の作品でした。

特に残念だったのは、華鍾彦の譜面にも録音にも接し、そしてそれが吉川幸次郎と合吟した吟誦に違いないにもかかわらず、その作品を自信を持って選べなかったことです。中国の吟誦に興味を持ってから、中国の主にネット上ですばらしい吟誦をここ十数年来探してきたのですが、なかなか思うような吟誦にめぐり合わなかったのです。小中学生の暗唱のために内容無視の旋律があてがわれたものであったり、伝承作品の場合、伝承者が高齢で方言や旋律が不安定である問題を抱えたものであったりしたわけです。
日本語吟唱についても、今回も訓読では無理があったので訳詞とさせていただいた。
吟唱は、Vocaloid6のSandraとYuinaを起用した。
《登高》杜甫(中日雙語吟唱 第54作)
這首《登高》是杜甫晚年所作,是七言律詩中被譽為最高傑作的,表達了悲壯而又不失豪邁的孤獨之情。
律詩在平仄和押韻上具有強烈的對仗感,而這首詩更是全對格,八行詩的首聯、頷聯、頸聯、尾聯這四聯的每一句都是對仗,前兩聯寫景,後兩聯抒情,這種偶數和對稱的美感對中國人來說是無法抗拒的。
正如我在其他文章中提到的,在研究中國吟誦的過程中,我瞭解了吉川幸次郎和中國吟誦家華鍾彥、華鋒父子(非物質文化遺產吟誦傳承人)。華鍾彥的著作中,不僅有與吉川幸次郎的唱和詩,還有令人感動的文字記載,他們在接待中乘車時,都認為《登高》是杜甫的最高傑作,於是兩人合唱,當時的吟詠抑揚頓挫的節奏竟然完全一致。基於這些原因,我一直在準備創作一首《登高》的雙語吟唱作品。
華鋒的《吟詠學概論》中收錄了兩種《登高》的吟誦譜,包括其父華鍾彥的。此外,中國教育部(相當於日本文部科學省)的推薦圖書《我愛吟誦》高級篇也收錄了這首詩,附錄DVD中更是收錄了多達13位吟誦作品的錄音和錄像。然而,這些作品沒有一首是我個人滿意的吟誦,最終勉強選出的是本次北京吟誦調演唱的蘇立康的作品。
尤其遺憾的是,我接觸了華鍾彥的譜和錄音,並且它無疑是與吉川幸次郎合唱的吟誦,但我卻無法自信地選擇這個作品。自從對中國吟誦產生興趣以來,十多年來我主要在中國互聯網上尋找優秀的吟誦作品,但一直未能遇到滿意的。有些是為了小初學生背誦而配上不顧內容的旋律,有些是傳承作品,但傳承人年事已高,存在方言口音或旋律不穩定的問題。
至於日語吟唱,這次也因為訓讀難以實現,所以採用了譯詞的形式。
吟唱部分使用了Vocaloid6Sandra和Yuina的聲庫。